- 禁忌・検査値:投与して問題ないか
- 用法・用量:投与量・投与期間
- 投与経路:皮下注射・筋肉注射・静脈注射・点滴静注など
- 投与速度
- 配合変化:ph依存・ph非依存の配合変化
- 製剤的に特殊な薬:フィルター・遮光・冷所・IVできない
注射業務って難しそう、調剤薬局では注射は扱わないから抵抗があると思われている方が多いのではないでしょうか。
確かに病院勤務では注射業務は必須ですので、知識がないのは致命的です。
苦手だと思い込みがちな注射業務も、気を付けるべきポイントや基本的な考え方をしっかり押さえておけば、そんなに難しいものではないんです。
私も新人の頃は大変苦労しましたが、長年病院薬剤師をしていると、注射業務を問題なくこなせるようになります。
この記事では、病院薬剤師歴10年以上の薬剤師が、注射業務のポイントや考え方をお伝えします。新人薬剤師さんやママ薬剤師さんのお役に立てれば幸いです。
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注射業務とは
注射業務とは、アンプル・バイアル製剤・輸液といった注射薬を注射処方せん通りに調剤・鑑査することです。
内服薬と基本的に同じですが、投与経路・投与速度・配合変化といった点が異なります。
処方箋の内容を確認する際に、上記の内容を確認します。
注射業務における注意点は、点滴が血管内に直接投与されるため、その身体的な効果も直接的であるため、細心の注意が必要です。
命に関わる重大な仕事であることは忘れずに、内服薬と同様に、より一層注意深く調剤・鑑査をする必要があります。
①投与して問題ないか
禁忌ではないか?
内服薬と同様に、投与禁忌の人に処方されていないか確認します。
相互作用のある内服薬や注射がないか、患者の病名を電子カルテで確認しましょう。
投与禁忌例 | 理由 |
バルプロ酸Na服用中・メロペネム投与禁忌 | バルプロ酸の血中濃度低下するため |
ソルタクドン静注・セララ錠投与禁忌 | 高K血症が発現することがあるため |
うっ血性心不全・ビーフリード輸液 | 循環血液量が増加し、心臓に負荷がかかるため |
検査値を確認して、点滴を投与して良いか考える
採血結果を確認し、投与して問題ないか確認しましょう!
例:K値が高値だが、K含有の点滴が投与されている
例:抗生剤が投与されているが、投与後にAST・ALTの値が高くなっており、肝機能障害疑われる。
②用法・用量:投与量・投与期間
腎機能や肝機能を考慮した投与量か確認する
腎機能の指標である血清Cre値、肝機能の指標となるAST・ALTなどの検査値を確認し、
注射薬の投与量に問題ないか確認します。
抗がん剤は体表面積で投与量を算出する薬剤が多いですが、薬によっては腎機能で計算する抗がん剤もあります。
腎機能・肝機能の評価のための検査値についての記事はこちら。
投与期間
内服と同様に、保険診療上、投与日数制限のある注射薬があります。
処方された場合はチェックするようにしましょう。
薬剤名 | 投与日数 |
抗菌薬 | 原則14日 (疾患によっては14日以上投与可) |
エダラボン | 14日 |
オザグレル | 14日 |
免疫グロブリン(重症感染症目的) | 3日 |
トロンボモジュリン | 5日 |
アンチトロンビンIII製剤 | 5日 |
アルガトロバン | 7日 |
③投与経路:皮内・皮下・筋肉・点滴静注・静脈・中心静脈・皮下持続・精密持続
注射薬の投与経路は様々です。薬によって、投与経路が異なりますね。
- 皮下注射:インスリン
- 皮下持続:麻薬のCSIのポンプでの投与
- 筋肉注射:静脈注射の次に効き方が速い
- 点滴静注・静脈注射:最も効き方が速い。
- 精密持続静注:ヘパリンなど。シリンジポンプを使って精密に管理
- 中心静脈:高カロリー輸液を投与する場合に使用
④投与時間:投与速度に注意すべき薬に指示があるか確認する
薬によっては、投与速度を守らなければ、副作用が発現する恐れがあるものもあります。
病院によっては、調剤時に看護師向けに注意喚起の説明用紙をつける施設もあります。
投与速度の指示に関して薬剤師がどこまで介入するかは、施設によって異なるので、確認するようにしましょう。
エダラボン点滴静注は、薬品自体に「30分で投与」と直接記載されているものもあります。
γ計算: mg/kg/hr は循環器系の注射薬剤でよく使います。
ハンプ1Vを5%ブドウ糖液50mlに溶解した際の早見表はこちら。
⑤配合変化:配合して問題ないか書籍で確認する
注射薬が2種類以上投与されている場合は、注射薬調剤監査マニュアルなどの書籍で配合変化がないか確認します。
phに依存して配合変化が起きるものとphとは関係のない機序で配合変化を起こすものがあります。
phの影響による配合変化:強アルカリ・強酸性の薬剤は注意
薬剤 | 規格ph | 変化点ph | |
アルカリ性 | カンレノ酸カリウム | 8.6-9.6 | 8.5以下 |
アルカリ性 | フロセミド | 9.0-10.0 | 6.32以下 |
酸性 | ブロムへキシン塩酸塩 | 2.2-3.2 | 4.71以上 |
酸性 | ミダゾラム | 2.8-3.8 | 4.72以上 |
カンレノ酸カリウムは変化点がとても近く、白濁しやすいのが特徴です。カンレノ酸カリウムは、配合変化に注意が必要なくすりであることがわかりますね。
カンレノ酸カリウムはメインの輸液の側管から投与されることが多いため、点滴を止めて、生食で前後フラッシュすることが多いです。
ph非依存の配合変化
影響を受ける薬剤 | 影響を及ぼす薬剤 | 現象 |
セフトリアキソンNa注 | Ca含有輸液 | 結晶析出 |
Ca含有輸液 | リン酸補正液 | リン酸Caの析出 |
ガベキサート、ナファモスタット | 硫酸基を持つ薬剤(ヘパリン) | 難溶性硫酸塩の形成 |
カルバペネム | L-システイン含有アミノ酸輸液 (アミパレン・キドミン・アミノフリード) | カルバペネムの力価低下 |
phとは関係のない機序で配合変化を起こすものがあります。
代表的なもので、セフトリアキソンNa注とCa含有の輸液製剤の配合変化です。
配合して問題がある場合、対応策を考える。
- 単独ルートにすべき薬剤なのか確認する。
- 点滴の混ぜる順番を考える。
- メインの点滴を止めて、フラッシュする。
- 最終手段:ルートをもう一つとるか。患者の負担が大きくなるので、できれば避けたい。
※中心静脈の場合:シングルルーメン・ダブルルーメンといったルートがあります。うまく使って、新たにルートを取らなくて済むように考えましょう。
患者さんや現場の看護師の負担を軽くできるように考えましょう!
⑥製剤的な特徴
フィルター:脂肪乳剤や血液製剤、高分子の薬剤はフィルターに詰まる可能性があるので、フィルターにつまりやすい薬なのか知っておく必要があります。
遮光:ビタミン剤やファンガード点滴静注などで遮光が必要。
冷所:冷所に保存すべき薬剤は、保管場所に注意する必要があります。
ワンショット静注できない:KCL注は、原則ワンショット静注ができない薬になりますので、そう言った薬関しても知っておく必要があります。
輸液セットと配合変化:代表的なものでニトログリセリンはポリ塩化ビニル(PVC)に吸着するため、PVCフリーの輸液セットを使用することで回避できます。他にも『破損』・『溶出』と言った現象にも注意が必要です。
補足:
・配合変化に関しては、薬剤部から事前に連絡する病院もあれば、看護師から相談があってから調べる病院と運用が異なる場合があります。勤める病院の方針に従って下さい。
・なお内容は初心者向けとなっております。この記事で全ての注意すべき薬剤を掲載している訳ではございませんので、ご注意ください。
まとめ:
注射調剤は内服とは異なる部分も多く、慣れるまでは大変かもしれまん。
今回記事の薬だけでは十分ではないので、自分の勤める病院の採用薬を知り、これらのポイントについて個人で勉強する必要はあります。
初めは大変ですが、頻繁に出る薬と滅多に処方されない薬もあるので、よく出る薬から勉強していくと良いでしょう。
注射業務は苦手意識を持っている方も多いですが、慣れるまでは、分からない時はまずは添付文書や注射や配合変化の書籍で確認しましょう。
また院内のDIで作成している資料や一覧があるはずですので、確認しましょう。
調べても分からない時は、先輩薬剤師に相談しながらで大丈夫です。
これからも一緒に勉強して、病院薬剤師として一緒に頑張っていきましょう!
新人病院薬剤師の調剤業務のポイントについての記事はこちら。
参考文献:わかりやすい新実務実習テキスト2019-2020:じほう
注射調剤監査マニュアル2021